会社売却を進める中で、「この査定額は本当に妥当なのか」「提示された契約書にサインしてよいのか」と不安を感じる経営者は少なくありません。しかし、今契約している仲介会社に直接聞きにくい、あるいは聞いても納得できる説明が得られないという声もあります。本記事では、M&Aにおけるセカンドオピニオンの意味と活用場面、相談先の選び方を解説します。
セカンドオピニオンとは?全体像
要は、今の仲介会社とは別の専門家に、もう一度見てもらうことです。M&Aにおけるセカンドオピニオンとは、現在依頼している仲介会社やアドバイザーとは別の専門家に、査定内容や契約条件、交渉の進め方について第三者の意見を求めることを指します。
医療の「セカンドオピニオン」と同じで、契約を切り替えること自体が目的ではありません。今の判断が妥当かどうかを、客観的に確認する手段だと考えるとよいでしょう。
M&Aの意思決定は、後戻りできない部分が多いのが特徴です。いったん株式譲渡契約を結べば、やり直しは困難になります。だからこそ、重要な局面で第三者の視点を挟むことには一定の意味があります。
ただし、専任契約(1社の仲介会社だけに依頼する契約)を結んでいる場合は、契約条項によって他社への相談範囲が制限されることがあります。まずは自社の契約内容を確認しておくことが前提になります。
セカンドオピニオンを検討すべき3つのタイミング
セカンドオピニオンはどの局面でも有効というわけではなく、特に次の3つのタイミングで検討する価値があります。
| タイミング | 確認すべきこと |
|---|---|
| 提示された査定額に納得できない | 算定根拠(採用した評価アプローチ、前提となった事業計画)が示されているか、目安とされる倍率の考え方に無理がないか |
| 契約書の内容が不安 | 基本合意書・最終契約書の条項が自社に不利になっていないか、表明保証(売り手が「開示した情報に事実と違う点はない」と保証する条項)の範囲が過大でないか |
| 専任契約を結ぶ前 | 専任条項・テール条項(契約終了後も一定期間内に成約すると仲介手数料の支払い義務が残る定め)の期間や範囲、報酬体系が業界の一般的な水準から大きく外れていないか |
これらを自分だけで判断するのは、簡単ではありません。だからこそ、利害関係のない第三者の専門家に見てもらう意味があります。
特に専任契約を結ぶ前の段階は、後から見直しがしにくいポイントです。専任条項やテール条項の内容はM&A仲介契約の注意点でも整理していますが、契約前にこそ第三者の目で確認しておく意義があります。
どこに相談すればよいか
セカンドオピニオンの相談先は、目的によって使い分けるのが実務的です。
- 顧問税理士・会計士:財務数値の妥当性や税務面の影響について、日頃の関係性を踏まえた助言が得やすい
- M&A専門の弁護士:契約書の条項リスク(表明保証・競業避止・チェンジオブコントロール等)を法的観点で確認できる
- 公的相談窓口:事業承継・引継ぎ支援センターなど、中立的な立場で初期相談に対応する公的機関も選択肢になる
- 別の仲介会社・FA:M&Aプロセス全体の進め方や価格交渉の方針について意見を求めることもできる。仲介とFAでは立場や報酬体系が異なるため、相談前に違いを理解しておくとよい
どの相談先を選ぶにせよ、そもそも自社にとって適切な仲介会社と契約できているかという点は出発点になります。M&A仲介会社の選び方で挙げた比較ポイントは、セカンドオピニオンを求める判断軸としても使えます。
相談にかかる費用と進め方の目安
「相談するとお金がかかるのでは」と身構える必要はありません。まず押さえておきたいのが、公的窓口である事業承継・引継ぎ支援センター(国が全国47都道府県に設置する事業承継の相談窓口)です。ここは原則無料・秘密厳守で初期相談に対応します(事業承継・引継ぎ支援センター公式)。ただし相談後に弁護士や公認会計士など専門家と個別契約する場合は、別途費用がかかることがあります。
顧問税理士や顧問弁護士がいる場合は、顧問契約の範囲内で相談に応じてもらえることも多いようです。ただし対応できる範囲は契約内容によるため、事前に確認しておくと安心です。M&A専門の弁護士に契約書のレビューだけを単発で頼む場合は、スポットの報酬が発生するのが一般的です。
相談をスムーズにするには、手元の資料をそろえておくとよいでしょう。目安となるのは、次の2点です。
- 仲介会社から受け取った株価の査定書(バリュエーション資料。会社の値付けの根拠を示した書類)
- 提示されている契約書案(基本合意書・仲介契約書・最終契約書などのドラフト)
これらがあると、専門家も具体的な助言をしやすくなります。
よくある失敗・注意点
セカンドオピニオンを求める際にありがちな失敗として、次のような点が挙げられます。
まず、専任契約の内容を確認せずに他社へ情報を持ち込み、契約違反を指摘されるケースです。専任条項に反する形で他の仲介会社へ依頼した場合や、基本合意で独占交渉権を定めた後に他の買い手候補と接触した場合には、契約の定めに基づき損害賠償を請求されるリスクがあります。違反時にどのような損害が想定されるかは独占交渉権の違反リスクで解説しています。セカンドオピニオンを求める前に、契約条項でどの範囲の相談までが許されるのかを必ず確認しましょう。
次に、セカンドオピニオンの結果だけを根拠に、現在の仲介会社との関係を一方的に悪化させてしまうケースです。意見の相違があっても、まずは事実関係を仲介会社側にも確認し、建設的に対話する姿勢が望まれます。また、無料相談を装って自社への乗り換えを強く勧誘してくる相手には注意が必要です。セカンドオピニオンはあくまで判断材料を増やすためのものであり、契約の切り替えを前提にしたものではないことを念頭に置くとよいでしょう。
まとめ
- セカンドオピニオンは契約の切り替えではなく、判断の妥当性を第三者視点で確認する手段
- 査定額への疑問・契約書への不安・専任契約前の3つのタイミングで検討する価値がある
- 税理士・弁護士・公的窓口・別の仲介会社やFAなど、目的に応じて相談先を使い分ける
次に読む
- M&A仲介会社の選び方・比較ポイント:セカンドオピニオンを検討する前提として、仲介選びの基準を確認する
- M&A仲介とFAの違い:セカンドオピニオンの相談先候補として、FAという選択肢も理解しておく
- 会社売却の進め方完全ガイド:セカンドオピニオンが必要になる意思決定の全体像に戻る

